家族デーゲーム

親孝行の正体を探っていくブログです。

自動ドアと親孝行

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自動ドアは自動で開くから自動ドアである。きっと間違ってはいない。しかしながら、最近自動ドアが開いてくれない。たしかにドアの前には立っている。じーっと待ってみるが反応がない。それなので体を揺すってみたりする。それでも反応しないものだから、ジャンプしてみたりする。

 一向に反応がないものだから、もう一度遠くからドアに迫ってみたりする。ようやくここで反応してくれると助かるが、モノによってはまだ反応しない。どうしたものかと考え込み最終的に睨んでみるが、どうやらそういう問題じゃないらしい。

 

そうこうしているうちに、後ろから人がやってくる。お待ちしていましたとばかりに、自動ドアは早い段階でその人を迎え入れた。その人と自分では一体何が違うのか。この世に必要とされている人間とそうでない人間ということだろうか。仮にそうであったら、このあと帰宅しすぐに遺書を書く準備をしなければならない。お父さんお母さんごめんなさい。親孝行の一つもしないうちに僕は旅立っていきます。

 

「三十路を過ぎてからこういうことが増えたような」。人間というのは一度マイナスの方に考え出すと軌道修正がなかなかに難しいもの。きっと勘違いだと心に言い聞かせながら買い物をすべく店内へ入っていく。店を出る頃にはきっとこんな気持ち忘れているはずさ。

 

会計が迫っていた。当然のようにあまり客が並んでいないレジを選ぶ。前の客がたばこのカートを注文した。たばこの入っているケースの鍵をレジの店員は持っていなかった。隣のレジへ鍵の要請を掛けた。会計が再開された。次にレシートが紙切れを起こした。紙の交換タイムに突入するらしかった。がしかし、そのレジには替えのロールがなかった。隣のレジにロールの要請を掛けた。

 

最終的に、他のレジより余計に時間が掛かった。「三十路過ぎて自分の身にはこういうことが増えたような。いや。たしかに増えたのだ」。現実を受け入れることにした。やはり自分はこの世に必要とされていない人間なのかもしれない。仮にそうであったら、このあと帰宅しすぐに遺書を書く準備をしよう。お父さんお母さんごめんなさい。親孝行の一つもしないうちに僕は旅立っていきます。

 

帰りしな、自動ドアの前に立つとやはりドアは開いてくれなかった。悲しかった。しかしもういい。なぜなら俺はこの現実を先ほどたしかに受け入れたのだから。そのとき、ドアの向こうに年齢が同じくらいの男が立っているのが見えた。体を横に振ったり飛び跳ねたりしている。

 

「おおそうか。おまえも俺と同じなのだな。いつの日か、お互いにこの世に必要とされる人間になりたいものだな」。そう呟き、ゆっくりと開いたドアを出ながら、すれ違いざまに新入りのそいつの顔をしれ~っと覗きみた。

 

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