田舎暮らしと親孝行
テレビもねえ。
ラジオもねえ。
車もそれほど走ってねえ。
30年ほど前にブラウン管から流れてきたこのフレーズは田舎者の悲哀を歌っているように見せ掛けながら、実は現代に生きる我々に向けた「田舎暮らしのすすめソング」だったのではないかと思ったりする。
”そちらの世界は何やら慌ただしいようですね。そんな暮らしに疲れてしまったのならばこちらの静かな生活などいかがですか?”。そう優しく提案していたように感じなくもない。
オラ、こんな村いやだ。
オラ、こんな村いやだ。
東京へ出るだ。
方言はいろいろ違えど、同じようなことを言い残し多くの若者が都会へのぼってゆく。自分ものぼったタチ。当時どんな状況になろうと切羽詰まらなかったのは、いつでも帰れる場所があるという思いがあったから。それに気付きながらも、都会で頑張っている自分というのをどこかの誰かに示したくて(実は自分自身かも)、馴染めない都会でアレコレ模索した。
最終的に時間と金の消費が割に合わないと結論付けて引き揚げたけれど、実際今振り返ってみても、生存していただけで生活を営んでいたワケではなかったと胸を張って言える。当時親はどう見ていたのか。自分のこともいいけどもっと我々の近くにいて親孝行でもしなさい。そう感じていただろうか。
テレビもねえ。
ラジオもねえ。
車もそれほど走ってねえ。
俺の地元はまったくそんなことはない。30年前とは時代が変わってしまったからあたりまえと言えばあたりまえ。でもそれでも、「住んでいる人たちの心は?」と問えば、都会にはない静で穏やかなものがあるように思う。あらためて、田舎というものについて語るには今このタイミングがちょうどいいのかもしれない。