家族デーゲーム

親孝行の正体を探っていくブログです。

子どもの恋バナを聞きたい親たち

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校内に一つしかない公衆電話の前に行列ができていた。並んでいる皆、自分の番をえらく待ち遠しくしているように見えた。出番が来た人間はボタンを素早く、そして見たことのない桁数の局番を押していた。「そんな局番ねえだろ」。思わずツッコミを入れた。ポケベル時代の到来だった。

 

程なくして、流行りに便乗しポケベルを手に入れた。時を同じくし、好きな女の子が現れた。高校生という多感な時期。子どもは自分の恋の話を親にするものだろうか。ウチの場合は息子から母親へ。「可愛い子がいてね~」といった感じで軽く報告した。

 

おはよう!
おやすみ!

 

送っていたのは主にその2つだった。最後のビックリマークはたぶん照れ隠しだった。ビックリマークなしに本文だけ送ったら、えらく淡白な男だと思われるのが嫌で、何となく付け足した。

 

時が流れた。相変わらず、「おはよう!」「おやすみ!」を送り続けていた。彼女の友達ツテに、彼氏ができたからあまり送らない方がいいかもと聞かされた。「これだけ接触しているのだ。何かの間違いだろう」。それからもしばらく、主におはようとおやすみを繰り返し送った。

 

しかし暫くすると、鈍感な自分にも分かるほどに反応が悪くなっていった。あの噂の影が明らかにウロついていた。会えば済む話なのだが、彼女は部活や家事に忙しく家もかなり遠方ということで、ずいぶんと時間を空けてしまった。いつまで経っても息子から恋の進展が語られないものだから、母親も肩透かしを喰らったに違いない。

 

卒業も迫ったある日。待ち合わせしていた友人のポケベルにメッセージを送った。「今日遅れる。ごめん!」。その後、待ち合わせ場所で会った友人にこう言われた。「おまえさ。恋人じゃないんだからハートマークはないだろ」。どうやら自分の持っていたポケベルのビックリマークは、友人の、そして好きだった子の持っていたポケベルで言うところの「ハートマーク」に相当するらしかった。

 

友達を介してフッたはずの相手がいつまでもハートマーク入りで朝と夜の挨拶を入れてくる。そんな生活は恐怖でしかなかったはずだ。元々は照れ隠しで入れていた「!」。良かれと思ってやったことが相手を不快に、そして恐怖に落とし入れていたとこのとき初めて知ったのである。

 

子どもは自分の恋の話を親にするものだろうか。ウチの場合は息子から母親へ。この恋の最終報告は、「可愛い子がいたと思ったけど、そうでもなかったわ」であった。完全に負けた試合を引き分けとして自分の中で消化させた。だがきっとウチの母親は分かっていた。その後も新しい報告をされるたび、母親はただ笑って受け入れ続けてくれた。

 

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